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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)109号 判決

アメリカ合衆国

77587 テキサス州 サウスヒューストン カンサス 809

原告

ジョン エス スミス

同訴訟代理人弁理士

丸山敏之

丸山信子

宮野孝雄

西岡伸泰

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官

深沢亘

同指定代理人通商産業技官

原幸一

松木禎夫

同通商産業事務官

廣田米男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成1年審判第1753号事件について平成3年1月24日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文1、2項と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、1982年8月16日に米国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和58年8月15日、名称を「フランジ保護具」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(同年特許願第149512号)をしたが、昭和63年10月7日、拒絶査定を受けたので、平成元年2月6日、審判を請求し、平成1年審判第1753号事件として審理された結果、平成3年1月24日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年3月7日、原告に送達された。なお、原告のため出訴期間として90日が附加された。

2  本願発明の要旨

表面が機械仕上げされ、外周部が環状であって複数のボルト用貫通孔を備えているフランジ管に取り付けるためのフランジ保護具において、合成樹脂あるいはゴムの如き可撓性の材料から作られ外端部は円周状に形成された外周部を備える円形のカバー体を備えており、

該カバー体は、片側がフランジの機械仕上げ面全体に被さってボルト孔の上端面を塞ぐように形成され、

複数の係合手段を前記のカバー体と一体に形成してカバー体側から突設し、該係合手段をフランジのボルト孔に内壁と摩擦によって当接させることにより、前記のカバー体側とフランジの機械仕上げ面とが係合状態を維持できるようにしており、

各々の係合手段は、カバーからボルト孔端部に向けて伸びる細長い中空筒状のシャンクである

ことを特徴とするフランジ保護具(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

(2)  本件出願前に米国内において頒布された刊行物である米国特許第4014368号明細書(以下「引用例1」という。別紙図面2参照)には、表面5が機械仕上げされ、外周部が環状であって複数のボルト用貫通孔4を備えているフランジ管に取り付けるためのフランジ保護具において、合成樹脂の如き可撓性の材料から作られ外周部に複数のタブ10を備えるカバー体を備えており、カバー体は、片側がフランジの機械仕上げ面5に被さるように形成されるとともにボルト孔の上端面を塞ぐ複数のタブ10が一体に形成され、係合手段11をタブ10と一体に形成してタブ10側から突設し、係合手段11をフランジのボルト孔4の内壁と摩擦によって当接させることにより、カバー体側とフランジの機械仕上げ面5とが係合状態を維持できるようにしており、各々の係合手段11は、タブ10からボルト孔4端部に向けて伸びる細長い中空筒12状のシャンクである、フランジ保護具が、同じく本件出願前に米国内において頒布された刊行物である米国特許第3563277号明細書(以下「引用例2」という。別紙図面3参照)には、表面22が機械仕上げされ、外周部が環状であって複数のボルト用貫通孔14を備えているフランジ管に取り付けるためのフランジ保護具において、合成樹脂あるいはゴムの如き可撓性の材料から作られ外端面は円周状に形成された外周部を備える円形のカバー体12を備えており、カバー体12は、片側がフランジの機械仕上げ面22全体に被さるように形成され、複数の保持プラグ10をカバー体12側から突設し、保持プラグ10をフランジのボルト孔14の内壁27と摩擦によって当接させることにより、カバー体12側とフランジの機械仕上げ面22とが係合状態を維持できるようにしており、各々の保持プラグ10は、カバー体12からボルト孔14端部に向けて伸びる細長い中空筒状である、フランジ保護具が、それぞれ記載されているものと認められる。

(3)  そこで、本願発明と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明において、カバー体とはタブ10を含むものであり、結局、カバー体は、ボルト孔の上端面を塞ぐように形成されているものとみることができ、かつ、係合手段11は、カバー体と一体に形成されカバー体から突設しており、いうまでもなく、シャンクもカバー体から伸びているものとみることができるので、両者は、表面が機械仕上げされ、外周部が環状であって複数のボルト用貫通孔を備えているフランジ管に取り付けるためのフランジ保護具において、合成樹脂の如き可撓性の材料から作られたカバー体を備えており、カバー体は、片側がフランジの機械仕上げ面に被さってボルト孔の上端面を塞ぐように形成され、複数の係合手段をカバー体と一体に形成してカバー体側から突設し、係合手段をフランジのボルト孔の内壁と摩擦によって当接させることにより、カバー体とフランジの機械仕上げ面とが係合状態を維持できるようにしており、各々の係合手段は、カバー体側からボルト孔端部に向けて伸びる細長い中空筒状のシャンクである、フランジ保護具、の点で一致し、本願発明は、カバー体の外端部がフランジ面全体に被さるように円周状に形成されている、すなわち、カバー体が円形であるのに対し、引用例1記載の発明は、そのような構成を備えていない点において相違しているものと認められる。

(4)  前記の相違点についてみると、この相違点は、保護すべき箇所、つまり、機械仕上げ面が、本願発明はフランジの全面であるのに対し、引用例1記載の発明はフランジの中央部分のみであることによって生じたものであるところ、フランジ全面が機械仕上げされたものにおいて、前記相違点について本願発明の構成を備えたものは引用例2に記載されており、また、機械仕上げをフランジの全面に施すか、フランジの中央部分のみに施すかは、当業者が必要に応じて採用しうる設計事項である。してみると、前記相違点の引用例1記載の発明の構成に代えて引用例2記載の発明の構成を採用し、本願発明のように構成することは、当業者にとって格別困難性があることではないというべきである。そして、本願発明の効果も、引用例1及び引用例2記載の発明のそれぞれの効果の総和以上の格別の効果とは認められない。

(5)  したがって、本願発明は、引用例1及び引用例2記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

本願発明の要旨、引用例2の記載内容についての審決の認定及び本願発明と引用例1記載の発明に審決認定の相違点があることは認めるが、審決には、審判合議体が原告に通知した拒絶理由とは異なる拒絶理由をもって本願発明は特許を受けることができないと判断した手続上の違法があり、また引用例1記載の発明の技術内容の認定を誤り、もって本願発明との一致点の認定を誤り、かつ相違点を看過し、また相違点についての判断を誤り、その結果本願発明の進歩性を誤って否定したもので、違法であるから取り消されるべきである。

(1)  手続上の違法

審判手続において、特許庁は、原告に対し、平成2年4月18日付けの拒絶理由通知書をもって拒絶理由を示した。

その拒絶理由通知書には、主たる引用例として引用例2を、従たる引用例として引用例1を示した上で、本願発明と引用例2記載の発明との相違点は係合手段がカバー体と一体となっているか否かの点にあるが、本願発明のようにカバー体と係合手段が一体となっているものは引用例1に示されているとし、引用例2記載の発明に引用例1記載の発明の技術を適用してカバー体と係合手段とを一体のものとすることは、当業者にとって格別の困難性はないとするものである。

しかし、審決は、本願発明の特許を拒絶すべき理由として、まず、本願発明と引用例1記載の発明との一致点をあげ、相違点については引用例2に記載されているとして、その構成を採用して、引用例1記載の発明の前記相違点の構成を本願発明の構成のようにすることは、当業者にとって格別の困難性はないとしたものであるが、これは、拒絶理由通知書に示された拒絶理由とは異なるものである。

原告は、拒絶理由の通知を受けて、本願発明と引用例2記載の発明の相違点を述べ、かつ、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明とを結合することはあり得ないことを主張した意見書を提出するとともに手続補正書を提出したものである。

しかるに、審決が前記拒絶理由に示した主張を翻し、本願発明と共通するのは引用例1記載の発明であるとするのは、特許庁の拒絶理由通知を信じて意見書、手続補正書を提出した原告の信頼を裏切るものである。

この点について被告は、拒絶理由通知書をもって示した拒絶理由は、「本願発明は、引用例1及び引用例2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた。」ということであり、括弧書で示された本願発明と引用例1及び引用例2記載の発明との一致点、相違点に基づく判断は単に考え方の一例を示したにすぎない旨主張するが、拒絶理由通知書の理由の欄に記載されているものは、括弧内のものであろうとなかろうと拒絶理由であり、出願人がそのように解すること通例であるから、単に考え方の一例を示したにすぎないとする被告の主張は理由がない。

したがって、審決には特許法第159条第2項で準用する第50条の規定に違反した違法があり、取消しを免れない。

(2)  一致点の認定の誤り

審決は、引用例1記載の発明の技術内容を、カバー体は覆い部にタブが一体として突設したものであり、カバー体をフランジ管の機械仕上げ表面に被せたとき、タブは同時にボルト用貫通孔の上端面を塞ぐものと認定している(審決第3頁第16行ないし第19行、第5頁第9、第10行、第18行ないし末行)。

しかし、引用例1には「フランジ3にボルト孔が8個あっても、タブ10は僅か4個あればよい」(第1欄第56行、第57行)と記載されているように、タブは複数個のボルト孔全部を覆うとは限らず、一部のボルト孔にはタブは対応せずに露出状態に放置する場合もあるのであり、タブはボルト孔を塞ぐために配備されたものではない。

また、引用例1には「タブ10の壁厚さは、覆い部6、7の壁厚さより薄い」(第1欄第67行ないし第2欄初行)、「孔用の突起は傾いたり、曲がる。しかし、突起部を真直ぐに揃えてボルト孔へ押入れると、捻り変形は消えて、表面9、10は同一平面に揃い」(第2欄第16行ないし第19行)と記載されているとおり、引用例1記載の発明のタブは肉薄に作られて屈曲自由であり、カバー体をフランジ面に当てると同時に突起がボルト孔に嵌まるものではない。

したがって、審決の前記認定は誤りであり、この誤った認定に基づいて、本願発明と引用例1記載の発明は「カバー体は、片側がフランジの機械仕上げ面に被さってボルト孔の上端面を塞ぐように形成され」た構成において一致するとした審決の認定は誤りである。

(3)  相違点の看過

本願発明のフランジ保護具の突起は覆い部から直接に突出しているから、本願発明の明細書(甲第3号証)に「複数のボルト締付具Mをボルト孔(14)に押込み摩擦しながら係合させる」(第12頁第2行ないし第4行)と記載されているように、全部の突起をボルト孔に一線上に並べ、ワンタッチ操作で係合できるのに対し、引用例1記載の発明では、突起はタブを介してカバー部に繋がっているため、各突起の向きは一定せず、そのため突起の一本づつをボルト孔へ揃えて個々に押入れる必要があるという相違がある。

このようにワンタッチで係合することができるか否かは、現場作業の能率に大きく影響するにもかかわらず、審決は、この相違点を看過したものであり、違法である。

(4)  相違点についての判断の誤り

審決は、本願発明と引用例1記載の発明との相違点につき、引用例1記載の発明の構成に代えて引用例2記載の発明の構成を採用し、本願発明のような構成にすることは当業者にとって格別困難性があるものではないと判断する。

しかし、引用例1記載の発明のカバー体を引用例2記載の発明のカバー体のようにフランジ全面を覆うように拡大した場合、引用例1記載の発明のタブ及び突起はフランジの外方に出てしまう不都合がある。

引用例1記載の発明のタブを排し、また、覆い部に貫通孔を開設し、突起は引用例2記載の発明の貫通孔24に設けるならば、それは引用例1記載の発明でも引用例2記載の発明でもない別物になってしまう。

また、引用例2記載の発明の覆い部の貫通孔24に突起を突設する場合、それは本願発明の構成そのものであって、引用例1又は引用例2にそれを開示したり示唆する記載はない。

したがって、引用例1記載の発明と引用例2記載の発明から本願発明の構成を得ることはできず、そのためには新たな発明を必要とするにもかかわらず、審決がその点の困難性は認められないと判断したのは誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認める。

2  同4は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

(1)  手続違反について

原告は、審決が、拒絶理由通知書において示した拒絶理由とは異なる理由で本願発明を拒絶すべきものと判断したことの違法をいう。

しかし、拒絶理由通知書において示した拒絶理由は「本願発明は引用例1及び引用例2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、「記」の括弧内の記載は、考え方の単なる一例にすぎないものである。

そして、審決は、拒絶理由通知書において示した引用例1及び引用例2に基づいて本願発明は拒絶すべきものとの判断をしたのであるから、拒絶理由通知書において示した拒絶理由と審決において示した拒絶理由との間に矛盾はない。

したがって、原告の主張は理由がない。

(2)  一致点認定の誤りについて

原告は、引用例1記載の発明のカバー体は覆い部にタブが一体に突設したものであり、カバー体をフランジ管の機械仕上げ表面に被せたとき、タブは同時に全てのボルト用貫通孔の上端面を塞ぐものとの審決の認定の誤りを理由に、審決の一致点の認定は誤りである、と主張する。

しかし、審決は、そのような認定をしているものではない。

カバー体は、フランジの特に機械仕上げをされた面を保護するものであるから、引用例1記載の発明のように、機械仕上げ面がフランジの中央部分のみである場合には、ボルト孔が存在するフランジの外周部の全面を保護する必要はなく、それゆえ、カバー体の外周部はボルト用貫通孔の数のタブではなく複数のタブになっており、そのタブに突設した係合手段をボルト孔と係合させるべく、タブはボルト孔の上端面を塞ぐようになっているのである。そして、審決は、この点を本願発明と引用例1記載の発明との相違点として、「本願発明は、カバー体の外端部がフランジ面全体に被さるように円周状に形成されている。すなわち、カバー体が円形である、のに対し、引用例1記載の発明はそのような構成を備えていない」と認定しているのである。

また、原告は、引用例1記載の発明のタブはカバー体の覆い部と一体の剛体構造ではなく、肉薄に作られて屈曲自由であるにもかかわらず、審決は、カバー体とタブが一体の剛体構造であるかの如く解し、カバー体をフランジ面に当てると突起は同時にボルト孔に嵌まると認定したこのと誤りをいう。

しかし、審決は、本願発明と引用例1記載の発明の一致点として、「カバー体は、片側がフランジの機械仕上げ面に被さってボルト孔の上端面を塞ぐように形成され」ていると認定しているのみであり、原告が主張するように、引用例1記載の発明のカバー体をフランジ面に当てると突起は同時にボルト孔に嵌まるとは認定していない。

以上のとおり、原告が引用例1記載の発明の技術内容の認定の誤りとして主張するところは、その前提を欠くものであり、理由がない。

(3)  相違点の看過について

原告は、審決は、本願発明のフランジ保護具においてはワンタッチ操作が可能であるが引用例1記載の発明のフランジ保護具ではそれが不可能であるという相違点を看過している旨主張する。

しかし、原告が主張する「ワンタッチ操作」という言葉は、本願発明の明細書には現れていない言葉であり、特許請求の範囲にも原告の主張するワンタッチ操作のための構成は示されていない。

すなわち、特許請求の範囲には、カバー体が「合成樹脂或いはゴムの如き可撓性の材料から作られ」(甲第7号証別紙第1頁第5、第6行)と記載されているのみで、その可撓性の程度(ワンタッチ操作のためには、カバー体は剛体構造に近いものでなければならない。)については何も明らかにしていない。したがって、ワンタッチ操作の可否に関する原告の主張は、特許請求の範囲に記載された構成に基づかない主張である。

また、実際の操作性についてみても、本願発明の明細書には、「第1図に示されたカバーは平坦であるが、本発明のフランジ保護具Pをポリエチレン等から成形する場合、カバー(10)は平らでなくとも構わない。フランジ保護具Pを型から取り外した後はそのフランジ保護具Pの冷却過程に於いてカバー(10)は幾分収縮したり曲がったりするかもしれない。仮令そのように収縮したり曲がっても締付け手段Mとボルト孔(14)とは略一列に並べることができる。複数のボルト締付具Mをボルト孔(14)に押込み摩擦しながら嵌合させると、カバー(10)は機械仕上げ面Sに倣い緊密に嵌まるためどんな曲がりも消えてしまう」(甲第3号証第11頁第15行ないし第12頁第6行)と記載され、引用例1記載の発明については「フランジ保護具はポリエチレンの如き耐衝撃性、熱可塑性樹脂を用いて高速成形することに適している。成形の際、タブ10の下面、及びスカート部7の下端表面9とカバー6の上壁は全て平坦に形成される。金型から取り出すと冷えて収縮するため、通常捻り変形が生じ、その為、表面9と10とはもはや同一平面になく、孔用の突起は傾いたり、曲がる。しかし、突起部を真っ直ぐに揃えてボルト孔へ押入れると、捻り変形は消えて、表面9、10は同一平面内に揃い、シール面5周囲のフランジの上表面8と緊密な嵌合をする」(甲第8号証第2欄第9行ないし第21行)と記載されている。これらの記載はほぼ同趣旨といえる。更に、これらの記載は、本願発明におけるカバー体も、引用例1記載の発明におけるカバー体も、いずれも、可撓性の材料から作られていることの裏付けであるともいえる。したがって、フランジ管への取り付け操作において、本願発明と引用例1記載の発明との間に、格別差異があるとはいえないものである。

したがって、審決に、本願発明と引用例1記載の発明との相違点の看過はない。

(4)  相違点についての判断の誤りについて

原告は、審決は、本願発明と引用例1記載の発明との相違点につき、引用例1記載の発明の構成に代えて引用例2記載の発明の構成を採用し、本願発明のような構成にすることは当業者にとって格別困難性があるものではないと判断したことの誤りを主張する。

しかし、引用例2記載の発明は、審決が認定しているように、「表面22が機械仕上げされ、外周部が環状であって複数のボルト用貫通孔14を備えているフランジ管に取り付けるためのフランジ保護具において、合成樹脂あるいはゴムの如き可撓性の材料から作られ外端面は円周状に形成された外周部を備える円形のカバー体12を備えており、カバー12は、片側がフランジの機械仕上げ面22全体に被さるように形成され、複数の保持プラグ10をカバー体12側から突設し、保持プラグ10をフランジのボルト孔14の内壁27と摩擦によって当接させることにより、カバー体12側とフランジの機械仕上げ面22とが係合状態を維持できるようにしており、各々の保持プラグ10は、カバー体12からボルト孔14端部に向けて伸びる細長い中空筒状である、フランジ保護具」であって、外端面が円周状に形成された外周部を備える点及び引用例1記載の発明における係合手段とほぼ同様の機能を持つ保持プラグがカバー体と別体である点を除いて、引用例1記載の発明とほぼ同様のものである。

そして、引用例1記載の発明は、前述のとおり、フランジ外周部が機械仕上げされていないため、カバー体がフランジ外周部全面を覆う必要がないので、カバー体は、その外周部が複数のタブになっているにすぎず、フランジ全面を保護する必要があるときは、カバー体は、フランジ全面に被さるように形成されなければならないことは自明のことである。

したがって、フランジ全面を保護しなければならないものにおいては、引用例1記載の発明におけるカバー体の外周部の複数のタブに代えて、フランジ全面を保護する必要のある引用例2記載の発明におけるカバー体の外周部に着目してこれを採用し、引用例1記載の発明におけるカバー体の外周部を、外端面が円周状に形成された外周部とすることは、当業者にとって格別困難性があるものではない。しかも、前述のとおり、引用例2記載の発明は、引用例1記載の発明とほぼ同様のものであるから、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明のものを採用し得ない理由も見出せない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

また、審決認定の引用例2に記載された発明の技術内容については、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決の取消事由について検討する。

1  成立について争いのない甲第3号証(本願発明の明細書)、第4号証(図面)、甲第5号証ないし第7号証(各手続補正書)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は次のようなものであると認めることができる(手続補正書による明細書の字句訂正ついては、手続補正書の該当箇所の引用を省略する。)。

(1)  技術的課題(目的)

本願発明は、フランジの機械仕上げ面に取り付けるフランジ保護具の分野に関し、より具体的には、弾性材料から作られるフランジに対し摩擦係合によって取り付けられるフランジ保護具の改良に関するものである(明細書第2頁第16行ないし末行)。

ポンプ、バルブ、配管等の流体を取り扱う装置は、従来よりそれらの端部をフランジ接続して流体が洩れないようにしている。

フランジは表面を機械仕上げし、隣り合うフランジあるいは装置同士を互いに取り付けるために複数のボルト孔を設けている。

接続したフランジから流体の洩れがないようにするため、輸送中、フランジ保護具をフランジの機械仕上げ面に取り付けておいてフランジを保護することはよく行われる。

引用例1記載の発明のフランジ保護具は、可撓性を有する耐衝撃性材料から作られた一体型の保護具を開示している。これは、フランジの外側表面に嵌められたカバーの取り外しを指で行うものであって、フランジのボルト孔の壁に摩擦係合した一体中空構造のはめ輪状留め具の露出した閉端部を指で押圧することによってカバーの取り外しを行う。はめ輪状の留め具は上端部が開口し下端部を閉じてボルト孔の底部から突出しており、指で押圧すると留め具が押し出されるようになっている。はめ輪状留め具の本体部の長さは、ボルト孔を貫通した留め具の底部を指で押圧することができるよう各々のフランジに対して個々に決めている。はめ輪状の留め具は、フランジから突き出ているため、フランジ保護具が不注意により脱落する可能性がある。

米国特許第3856059号のフランジ保護具は、可撓性を有する材質で形成したプレートをフランジの機械仕上げ面に取り付けるものであるが、端部を球状に形成した複数個の細長い連結手段をプレートに一体形成し、細長い連結手段をボルト孔に嵌め、球状の部分でフランジの適所にて保護具を保持している。保護具をフランジから取り外すにはヘッド部分あるいは球状の部分を連結手段から分離させることによって保護具がフランジを滑ってくれる。したがって、露出した球状の部分が故意でなくとも分離し、フランジ保護具は機械仕上げしたフランジ表面から離れ、機械仕上げ面は露出して損傷しやすい(明細書第3頁第2行ないし第5頁初行)。

従来のフランジ保護具は上記のような欠陥があるところ、本願発明は、不注意によるカバーの脱落を防止することができる、新規で改良されたフランジ保護具を堤供するものである(明細書第7頁第15行ないし第8頁初行)。

(2)  構成

本願発明は、前項の技術的課題(目的)を解決するためにその発明の要旨(特許請求の範囲〈1〉)の構成を採用した(平成2年11月7日付手続補正書別紙第1頁第2行ないし末行)。

本願発明の実施例である別紙図面1の第1図及び第2図において、フランジ保護具Pは、環状の外周部(20)と複数のベルト孔(14)を備えるフランジFの機械仕上げした表面Sに取り付けられるものであって、ボルト孔(14)は表面Sからフランジを貫通している。

保護具Pには例えば成形されたポリエチレン、ポリスチレンあるいはゴムのごとき可撓性材料から作られたカバー(10)が含まれる。カバー(10)の片側(10s)は機械仕上げ面Sに略倣う形状に形成している。カバー(10)はボルト孔(14)と望ましくは表面Sの全体を拡がり、機械仕上げした表面Sと係合して仕上げ面Sを保護する。少なくとも一つの係合手段Mがカバー(10)の係合する側(10s)から伸び、ボルト孔(14)の内壁あるいは表面(14s)の少なくとも一部分と摩擦係合し、側部(10s)を機械加工した表面と係合しつつ支持する。各係合手段Mには細長い筒状のシャンク(12)が含まれ、該シャンクはカバー(10)から伸びて開口した端部(12e)に到る。各々の筒状シャンク(12)は中空の孔(12b)を有しており、孔はほぼカバー(10)のところから開口した端部まで伸びている。各筒状のシャンク(12)の長さは、そのシャンクが嵌まるボルト孔(14)の長さより短い(明細書第9頁第7行ないし第10頁第8行)。

(3)  作用効果

本願発明の構成によれば、フランジ保護具Pは、係合面(10s)を機械仕上げ面Sの形状に合わせ、かつ、係合手段のシャンク(12)をボルト孔(14)のと一列に並ぶように形成すれば、フランジ保護具Pの複数の係合手段Mは各々が対応するボルト孔(14)の各々と一線上に並べられ、手又は他の適当な手段で保護具Pを押し込み、機械仕上げ面と係合させることができる。シャンク(12)の外側表面(12o)とボルト孔(14i)とは摩擦によって係合するため、フランジFと緊密に係合した状態で保護具Pは支持される。シャンクは、中空筒状に形成してあるから弾力性は高まり、大きい摩擦力でボルト孔の内壁と係合する(明細書第12頁第9行ないし第18行、昭和63年8月22日付手続補正書第2頁第3行ないし末行)。

2  成立に争いのない甲第8号証(引用例1)によれば、引用例1記載の発明のフランジ保護具(別紙図面2参照)は、表面5が機械仕上げされ、外周部が環状であって複数のボルト用貫通孔4を備えているフランジ管に取り付けてフランジの機械仕上げ面5を保護するものであり、合成樹脂のような可撓性の材料から作られ、外周部に複数のタブ10を備えるカバー体を備えており、カバー体は、片側がフランジの機械仕上げ面5に被さるように形成されるとともに全部又は一部のボルト孔の上端面を塞ぐ複数のタブ10が一体に形成され、係合手段11をタブ10と一体に形成してタブ10側から突設し、係合手段11をフランジのボルト用貫通孔4の内壁と摩擦によって当接させることにより、カバー体側とフランジの機械仕上げ面5とが係合状態を維持できるようにしており、各々の係合手段11は、タブ10からボルト用貫通孔4端部に向けて伸びる細長い中空筒状のシャンクとなっていることを認めることができる。

3  手続上の違法について

原告は、審決における拒絶理由は、拒絶理由通知書において示された拒絶理由と相違するとして、審決には特許法第159条第2項で準用する第50条に違反した違法があると主張する。

成立に争いのない甲第10号証(拒絶理由通知書)によれば、審判合議体の平成2年4月18日付の拒絶理由通知書には、「本願発明は、その出願前の米国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」と記載され、「記」として引用例1、2が記載され、続いて括弧書で「フランジ保護具において、可撓性材料からなる円形のカバー体を備えており、複数の係合手段をカバー体から貫通して突設し、該係合手段をフランジのボルト孔の内壁と摩擦によって当接させることにより、カバー体側とフランジ面とが係合状態を維持できるようにしており、各々の係合手段は、カバー体からボルト孔端部に向けて伸びる細長い中空筒状のシャンクを備えているフランジ保護具は、引用例2に記載されているようにこの出願前公知である。引用例2に記載されたものは、本願発明と対比すると、カバー体と係合手段とが別体となっている点において相違するが、フランジ保護具においてカバー体と係合手段とを一体にすることは、引用例1に記載されているようにこの出願前公知であるので、引用例2に記載されたものに引用例1に記載されている技術を適用して、引用例2に記載されたもののカバー体と係合手段とを一体にすることは、当業者にとって格別困難性があるものとはいえない。」旨記載されていることを認めることができる。

以上によれば、拒絶理由通知書に示された拒絶理由は、本願発明と引用例2記載の発明との一致点及び相違点を示し、相違点については引用1記載の発明の構成を採用することは容易であるとするものであるのに対し、審決の認定、判断は、本願発明と引用例1記載の発明との一致点及び相違点を示し、相違点については引用例2記載の発明の構成を採用することは容易であるとするものであり、その意味で、拒絶理由通知書に示された拒絶理由と審決に示された認定、判断とに齟齬があることは否定できない。

この点について被告は、拒絶理由通知書に示された拒絶理由は、「本願発明は引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができた」というものであり、括弧内の記載は考え方の単なる一例に過ぎない旨主張するが、拒絶理由通知は、審査官又は審判官が出願人に拒絶すべき理由を発見したことを通知することによって、出願人に意見書、さらに必要があれば手続補正書を提出する機会を与える制度であることに鑑みれば、特許法第29条第2項により特許を拒絶しようとする場合において示すべき拒絶理由は、単にそれに基づき容易に発明をすることができるとする出願前公知の発明や刊行物を示すだけでなく、それから容易に発明をすることができる理由を具体的に示すことが制度の趣旨に沿うものであり、したがって、本件の場合、その理由を具体的に示した括弧内の記載も拒絶理由の内容であるというべきであり、単に考え方の一例を示したものということはできない。

しかし、当事者間に争いのない引用例2記載の技術内容及び前記2認定の引用例1記載の技術内容に照らすと、引用された二件の引用例記載の発明は、

〈1〉  フランジ管に取り付けるフランジ保護具である点において本願発明と同一の技術分野に属し、

〈2〉  外周部が環状であって複数のボルト用貫通孔を備えているフランジ管に取り付けるためのフランジ保護具において、合成樹脂の如き可撓性の材料から作られた外周部にカバー体を備え、該カバー体は片側がフランジの機械仕上げ面に被さるように形成され、複数の係合手段をカバー体側から突設しフランジのボルト孔の内壁と摩擦によって当接させることにより、カバー体とフランジの機械仕上げ面とが係合状態を維持できるようにしており、各々の係合手段はカバー体からボルト孔端部に向けて伸びる細長い中空筒状のシャンクであるフランジ保護具である点で構成が共通であり、

〈3〉  本願発明との相違点は明確であり、かつ僅かにすぎない。すなわち、引用例1記載の発明はカバー体によるカバー範囲がフランジの中央部分のみであるのに対し、本願発明はフランジ全体である点で相違し、引用例2記載の発明は係合手段がカバー体と別体であり、カバー体がボルト孔の上端面を塞いでいないのに対して、本願発明は係合手段とカバー体が一体であり、ボルト孔の上端面を塞いでいる点で相違するに過ぎず、

以上の点は、当業者であれば、各引用例の記載から容易に判断できることである。また、前掲甲第3号証によれば、引用例1及び引用例2記載の発明はともに本願明細書に本願発明の先行技術として引用されており、出願人としてはその技術を熟知していたものと認められる。

したがって、前記拒絶理由と審決の認定、判断との相違は、引用例2を主引用例として同記載の発明との相違点について引用例1記載の発明の構成を適用するか、引用例1を主引用例として同記載の発明との相違点について引用例2記載の発明の構成を適用するかの違いに過ぎず、いずれの場合も生ずる論点は同じと考えられ、拒絶通知を受けた出願人(審判請求人)がとるべき対応に格別の相違が生じたものとは認められない。

原告は、審決が拒絶理由に示した主張を翻し、本願発明と共通するのは引用例1記載の発明であるとするのは、特許庁の拒絶理由通知書を信じて意見書、手続補正書を提出した原告の信頼を裏切るものである旨主張するが、前記認定事実に照らすと、審判合議体が改めて拒絶理由を通知することなく審決において引用例1を主引用例として同記載の発明との相違点について引用例2記載の発明の構成を適用する認定、判断を示したからといって拒絶理由制度の趣旨に反するとはいえないから、原告の前記主張は理由がない。

したがって、原告は、拒絶理由通知書に示された拒絶理由に対し、引用例1及び引用例2記載の発明に基づいては本願発明を容易に発明することはできなかったものであることにつき意見を述べることはできたものである。

したがって、審判合議体としては、本願発明と引用例1記載の発明との一致点及び相違点を認定した上、相違点については引用例2記載の発明の構成を採用することは容易であるとする理由に基づいて出願を拒絶しようとするとき、改めて原告に拒絶理由を通知する必要はなかったというべきである。

よって、審決の手続上の違法をいう原告の主張は失当である。

4  一致点の認定の誤りについて

原告は、審決が、引用例1記載の発明は、「カバー体は、片側がフランジの機械仕上げ面5に被さるように形成されるとともにボルト孔の上端面を塞ぐ複数のタブ10が一体に形成され」(第3頁第16行ないし第19行)、「カバー体は、ボルト孔の上端面を塞ぐように形成されているものとみることができ」(第5頁第9行、第10行)と認定したのは誤りであり、この誤った認定に基づいて本願発明と引用例1記載の発明は、「カバー体は、片側がフランジの機械仕上げ面に被さってボルト孔の上端面を塞ぐように形成され」(同頁第18行ない末行)た構成において一致していると認定したことの誤りを主張する。

前2認定のとおり、引用例1記載の発明のフランジ保護具にあっては、タブはフランジのボルト孔全部を覆うとは限らず、一部のボルト孔にはタブは対応せずに露出状態に放置する場合もあるものと認めることができる。しかし、全部のボルト孔を塞ぐようにするか一部のボルト孔のみを塞ぐに止めるかは、当業者が適宜に採用し得る単なる設計事項であることは明らかであるのみならず、引用例1記載の発明がタブがボルト孔の全部を覆う構成を含む以上、その構成は本願発明の「カバー体は、片側がフランジの機械仕上げ面に被さってボルト孔の上端面を塞ぐように形成する」構成と同一であり、引用例1記載の発明が一部のボルト孔にはタブと対応せず露出状態に放置することがあるからといって、その点において両者の構成が相違するということはできない。

また、原告は、引用例1記載の発明のフランジ保護具のタブは肉薄に作られていて屈曲自由であるから、カバー体をフランジ面に当てても、それと同時に突起がボルト孔に嵌まるものではないにもかかわらず、カバー体をフランジ面に当てると同時に突起がボルト孔に嵌まるもののように、すなわち、カバー体が剛体構造のものであるかのように認定しているとして、その誤りを主張する。

しかし、審決の原告指摘の箇所は、原告が主張するように、カバー体をフランジの機械仕上げ面に被せることにより、当然にタブがボルト孔を塞ぐものと認定しているものではなく、単に、カバー体はフランジの機械仕上げ面に被さり、一方、タブはボルト孔を塞ぐような構造のものとして構成されていると認定しているに過ぎないことは、その各記載から明らかである(なお、本願発明と引用例1記載の発明のカバー体の硬度の相違についての原告の主張が理由がないことは、次項で述べるとおりである。)。

よって、引用例1記載の発明の技術内容の認定の誤りを理由に審決の一致点の認定の誤りをいう原告の主張は失当である。

5  相違点の看過について

原告は、本願発明はフランジ保護具のカバー体の突起をボルト孔に一線上に並べワンタッチ操作で係合できるのに対し、引用例1記載の発明ではそれが不可能であるという相違点を看過したと主張する。

確かに、前(3)(本願発明の作用効果)で認定したとおり、本願発明の作用効果として、本願発明の構成によれば、フランジ保護具Pと複数の係合手段Mは各々が対応するボルト孔と一線上に並べられ、手又は他の適当な手段て保護具Pを押し込み、機械仕上げ面と係合することができる旨が記載されている。

その記載からすれば、本願発明のフランジ保護具にあっては、フランジ保護具の係合手段とボルト孔とを一つ一つ対応させてから押し込む必要はなく、一つの係合手段Mと一つのボルト孔さえ確認して対応させれば、その他の係合手段Mとボルト孔とは当然に対応するので、操作性に優れる面があるということができる。

しかし、原告のいうワンタッチ操作が可能であるためには、カバー体に一定の硬度があることが必要であると認められるところ、本願発明の特許請求の範囲には、カバー体が「合成樹脂或いはゴムの如き可撓性の材料から作られ」と記載されているに過ぎず、原告のいうワンタッチ操作を可能とする構成は何ら記載されていないのであるから、原告の主張は、本願発明の要旨に基づかないものであって、失当である。

6  相違点についての判断の誤り

原告は、審決が、本願発明と引用例1記載の発明との相違点(本願発明はカバー体の外端部がラランジ面全体に被さるように円周状に形成されているのに対し、引用例1記載の発明はそのような構成を備えていない点)につき、引用例1記載の発明の構成に代えて引用例2記載の発明の構成を採用して本願発明のような構成にすることは、当業者にとって格別困難性はないと判断したことの誤りをいう。

しかし、前認定のとおり、引用例1記載の発明の場合、ボルト孔のあるフランジ外周部が機械仕上げをされていないため、カバー体はフランジ外周部全面を覆う必要がないので、円周状の機械仕上げ面を覆う部分から外方に、ボルト孔に係合する突起の付いたタブが出る形状とされているものである。

引用例1記載の発明の場合においても、機械仕上げ面がフランジの全面にわたるときは、それを保護するためにはフランジ全面をカバー体で覆う必要があることは、当業者であれば容易に想到することができるものである。

そして、引用例2記載の発明は機械仕上げ面22が円形のフランジの全面に及ぶため、カバー体も円形に形成されている。

したがって、引用例1記載の発明において、フランジの機械仕上げ面がフランジ全面に及ぶ場合においては、カバー体の形状を引用例2記載の発明のカバー体の構成を採用し、それと同じく円形のものとすることは、当業者であれば容易に想到することができるものである。

原告は、フランジ全面が機械仕上げされたものに対して引用例1記載の発明のカバー体を引用例2記載の発明のようにフランジ全面に拡大した場合、タブはフランジの外方に出てしまう不都合がある等の主張をするが、タブ及び係合手段たる固定部材は塞ぐべきボルト孔に対応して設けられるのが当然であって、前記カバー体をフランジ全体に拡大した場合であってもボルト孔が依然としてフランジの外周部よりも内側に位置している以上、タブ及び固定部材がフランジの外方へ出てしまうことはあり得ないから、採用の限りではない。

7  以上のとおり、審決の違法をいう原告の主張はいずれも理由がなぐ、審決が、本願発明は引用例1及び引用例2記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたとした判断に違法はない。

第3  よって、審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間を定めることにつき、行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条、第158条第2項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 佐藤修市)

別紙図面1

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

別紙図面3

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